2010年03月03日
カムイが渉る川。
知床の、静かな川の流れ。
ここは標高が高い稜線でもなく、深い森の中でもない。
人の生活圏からすぐ傍の、だが人があまり立ち入ることのない川の畔。
無数のカラフトマスが川を埋め尽くし、
川辺にはヒグマが彼等を捕え、食らった痕跡が無数に散りばめられていた。
シリエトクは、人の生活が神の領域に隣接している。
早暁の光に反射する、この静かな川の燦きの中に
シルエットとなって音もなく歩いていくヒグマの姿を夢想して
僕は思わず身を震わせた。
稜線、森の中、川の畔。知床でヒグマを探し歩いている時、
僕は言いようの無いほどの深遠な幸福感に包まれるのを幾度も感じた。
今までの少ないチャンスの中で、彼等には二度会えた。
手元には深い感情の記憶と、手振れのひどい写真が一枚だけ残った。
何も残らなくてもいいのかもしれない。
様々なものを危うく失いかけたような気もしている。
人生で最良の経験といっていいだろう。
合理的に待ち伏せるのではない。
ふと、フィールドで無垢の彼等に出会う偶然を求め続ける。
そんな無謀な行為を、僕は南の島でも15年以上も繰り返してきた。
そして北の大地でも。
森の神の姿を求めて、僕は死ぬまで
この景色の中をさ迷い続けていきたいと思う。
Posted by Sinh at 00:08│Comments(0)
│知床
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